学科プログラム:フィンランド心理福祉研修2018
【最終日5日目】エスポー市の小学校~シベリウス公園
フィンランド心理福祉研修、いよいよ最終日の5日目となりました。
今日の訪問地は、ヘルシンキ市の隣にあるエスポー市の小学校。
この小学校は3年生からフィンランド語と英語のバイリンガル教育を施しています。希望者には4年生からドイツ語を、6年生にスウェーデン語も履修できます。

いろんな授業を見学することができましたが、特に印象深かったのは理科のクラス。
ヨーロッパ大陸の森林学的環境を理解した後、あらかじめ二人の生徒が調べてきたワードで作成したノートを基にしてディスカッションをしたり、ファクトチェックを行ったりするなど、活発なアクティブラーニングが展開されていました。
そのノートもなかなかの量でした。

また、この小学校には、機能別領域教育(日本では特別支援学級という言い方をしていますが名称一つにも価値観の違いが表れていますね)が備えられており、特に重度の知的・身体障害を持った子どもの教育が行われています。
スタッフは子ども一人当たり一人。日本に比べて手厚く感じます。
また施設の雰囲気もとても明るい印象でしたが、それは、そもそも建築デザインが持っている特徴にも由来しているようにも思われました。

特に機能別領域教育では、担当するスタッフの名前をタッチパネル式の大型モニターを使用して生徒が覚えていく時間を見学しましたが、スタッフの対応や生徒への向き合い方がとても丁寧でした。

生徒たちと一緒にお昼ご飯を食べて、名残惜しく小学校を後にしました。
午後は、空港に向かうバスを途中下車して、ヘルシンキ市にあるルター派のテンペリアウキオ教会を見学。
大きな岩をくり出して作られた独特な教会建築です。音響効果も抜群で、しばしばコンサートの会場にも使用されています。銅で作られた大きな屋根の下で、26億年前にできた岩の壁に取り囲まれつつ、静寂の中を祈りをもって過ごすひと時を味わいました。

フィンランドの名音楽家J・シベリウスを記念したシベリウス公園も見学。
そしてバスに乗ってヘルシンキ空港へ。またいつか再会することを祈りつつ、5日間通訳とコーディネーターを務めてくださったロミさんとお別れいたしました。
この5日間、かなりタイトなスケジュールではありましたが、疲れに勝る大きな学びと経験を重ねることのできた貴重な時でした。
【4日目】自由行動日
フィンランド心理福祉研修、4日目は自由行動日。
首都ヘルシンキ市内を一日かけてゆっくりと散策をしたり、ちょっと足を伸ばして海を挟んだバルト三国の一つエストニアにあるタリン(中世の街並みが残る世界遺産のある街)に行った人もいるなど、思い思いの時間を過ごしました。サウナに入った人も。

ヘルシンキには美術館や博物館など様々な観光名所がありますが、なんといっても見どころはやはり教会ではないでしょうか。
近年少しずつ数は減ってきているものの、それでも80%近いフィンランド国民が主にプロテスタント宗教改革を生み出したM・ルターの流れを継承するルーテル教会に在籍しています。
一見、ロシア正教のように見える建築様式を持ったヘルシンキ大聖堂もルター派の教会。

フィンランドは、プロテスタント運動を生み出したルター派が、いわば国民教会としての位置づけを持っていますが、歴史的な関係から、ロシア正教もまた、欠くべからざる重要な宗教的立ち位置を保っています。
ヘルシンキ大聖堂は、そのロシア正教とルター派教会が見事に融合した教会の一つということができるでしょう。
また、ロシア正教のウスペンスキー寺院も、その荘厳さに圧倒されました。

また、留学生として聖学院大学に来て今回参加してくれた学生は、かつて日本語学校で一緒に学んだ友がフィンランドにおり、再会を果たしたりもしました。
【3日目】アウティスミサーティオ~フィンランドのご家庭の訪問
フィンランド心理福祉研修三日目も、精力的に見学を行いました。
午前中は自閉症スペクトラムの方のサポートを行う自閉症財団アウティスミサーティオを訪問。自閉症スペクトラムを持つ人は、フィンランドでは約8万人いると言われています。
その方々が社会での就業・就労を行うためのサポートを主な目的として設立されています。
昨日訪問したスカルッピと同じく、症状の程度による段階的なサポート体制が整えられています。いわゆる引きこもり対策も支援の一環として取り組まれていました。

また、自閉症を持つ人への理解の啓蒙として、この財団が中心となって、毎年映画祭を開催しています。
今年で4回目とのこと。自閉症を持つ人は、大きな潜在可能性があることを意識しつつ、その可能性を伸ばしていく取り組みが行われていることに深い感銘を受けました。
利用者の作成したアート作品が施設の至る所に飾られており、明るい環境と個性を認める雰囲気づくりが印象的でした。

昼から午後にかけて、ヘルシンキ中央駅周辺の散策。
注目すべきは、フィンランド独立100周年を記念して、昨年12月にオープンしたばかりの図書館オーディ。
日本の図書館とは全く異なり、音楽活動、CD作成、裁縫、工芸など、あらゆる創作活動をサポートする空間が備えられています。もちろん勉強を行う空間も充実。カフェが備えられ、人々はご飯を食べたり、コーヒーを飲んだりしながら、思い思いの場所で勉学に勤しんでいました。

午後は、ヘルシンキ大学准教授勝井久代先生から特別講義をいただきました。
専門は障がい学。フィンランドの最新の福祉事情を織り交ぜながら、フィンランドの障がい者支援の歴史や現在の政策の特徴・課題を伺うことができました。
とにかく講義を通して痛感させられたのは、日本とフィンランドとの間にある障がい者観の大きな差。
それはすなわち人権感覚の差ということでもあるでしょう。日本に存在している人権感覚の貧しさをまざまざと見せつけられた思いがいたしました。

予定時間を超過して、熱い講義を伺いました!
夜は、フィンランドのご家庭の訪問。訪問先は、昨年の研修でもお世話になったリンナリンネ家。
サーモンやミードボール、カレリアパイなど、フィンランドの伝統的な食事をいただきつつ、豊かな交流を持たせていただきました。
濃厚かつ充実した一日を過ごすことができました。
【2日目】スカルッピ生活訓練ユニット、フィンランドメンタル協会
フィンランド心理福祉研修、2日目は、いよいよ研修の本番です。
今日は、午前中に精神障害者の生活訓練ユニットを営むニエミコティ財団スカルッピの見学、午後はメンタルヘルス協会の見学及びフィンランド初の精神病院であるラピンラーデンラーデの見学をしました。
今回訪れたスカルッピは、閉鎖病院を出て、より社会復帰へと移行するための短期集中型の中間移行型生活訓練ユニット。利用者の定員は10名。このスカルッピでの生活期間は、短くて半年から4年ほどで、16~30歳までの青年層が利用しています。
また、利用者1人あたりにつき2人のスタッフが担当しており、類似する日本の施設よりも援助体制が手厚い印象です。
スカルッピを運営するニエミコティ財団は、民間の非営利団体ですが、いわばヘルシンキ市の福祉事業における子会社のような役割を果たしています。

ただ、利用者一人当たり2名のスタッフがつくものの、その担当者らのみが特定の利用者の支援を担当するではなく、施設のスタッフ全体がチームワークを持って取り組んでいます。
そのため、ミーティングは、細目に行われており、さらには、二か月に一回はスタッフのコーチングを支援する専門職員が市から派遣されてスカルッピを訪れ、スタッフ側への支援体制も整えられています。
短期集中型の施設ですが、すぐにより軽度のユニットに移ることもあれば、閉鎖型の施設に戻る人もおり、ロングスパンの関わりが前提となっています。

午後はメンタルヘルス協会の施設を訪れ、自殺予防センターの働きについて学びました。
近年のフィンランドの自殺者は、全人口約550万人に対して800人程度。
ただ、自殺未遂者となると、その数は5万人と大きく跳ね上がります。そのため、自殺予防対策は、既に自殺未遂者に対するケアがメインとなります。
電話やメール、SNSを用いた相談窓口の開設や、クライシスセンターを国内22個所に設置するなど、なるべく多くのニーズに対応する政策が急速に進められています。また、自殺予防の必要性を議員に対するロビー活動を通して訴えるなど、より具体的で実践的な対処も行われており、その本気度を知ることができました。
最後はフィンランド初の精神病院の跡地ラピンラーデンラーデの見学へ。
1840年に創設されたこの施設は、海のほとりに位置しており、自然豊かな環境に囲まれています。
市全体の合理化の影響で、閉鎖型病院のニーズが乏しくなり、約10年前に精神病院としての機能は中止されましたが、現在は、有効利用のためのアイデアを募り、ヘルシンキ市のウェルビーイングに資する施設と変わりつつあるようです。
建物の設計者は、明日訪れる予定のヘルシンキ大聖堂を造ったカール・エンゲル。堂々とした佇まいと、エンゲル・カラーと称される薄山吹色のあたたかな色の外壁の対比が印象的でした。


【初日】いよいよ出発~研修初日の様子
心理福祉学科・人間福祉学科・子ども心理学科合同、北欧心理福祉研修が始まりました!
昨年までは人間福祉学科としての研修でしたが、心理福祉学科に改組されて最初の北欧研修となります。
ただ研修場所は昨年に引き続きフィンランドへ。学生9人、教員2人、アサヒトラベルの添乗員1人と賑やかな顔ぶれで、フィンランド研修、スタートしました!
期間は2月25日(月)~3月2日(土)までの5日間。今日は初日の様子をお伝えします。

10時間ほどのフライトを経て、現地には午後3時に到着。日本との時差はマイナス7時間です。今日の気温は7度とちょっと高めでした。でも三日前まではマイナス8度だったとか・・・

貸し切りのバスに乗車して30分ほどたったら、そのまま宿泊ホテルのソコス・プレジデンッティへ。
交通機関の中心地であるヘルシンキ中央駅から歩いて5分ほどに建てられている素敵なホテルです。すぐ隣にはカンピという大きなショッピングモールも。早速買い物をしてから、ホテルの夕食へ。
ビュッフェスタイルで、柔らかいノルディックポークや海老の濃厚ポタージュなどを堪能しました。

明日からいよいよ研修本番。
スカルッピ生活訓練ユニット、フィンランドメンタル協会の見学などを行います。