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おせっかいな距離感
おせっかいな距離感

 先日、大阪に行った時のことである。

 有名な串カツやさんに並んでいると、前にいた家族づれのお父さんが「ここは美味しいよ。あれが大将だよ」といきなり話し出した。一瞬、「私に話しかけているのかな?」と思うものの「そうですか。楽しみです」と答えると、お父さんはにっこり笑った。やはり私に話しかけていたのである。

 また、慣れない地下鉄の乗り換えに地図とにらめっこしていると、きれいなOL風のお姉さんが「どこに行くんですか?」と聞いてくる。「○○です」というと、「ああ、それならこの電車で合ってますよ」とやはりニッコリ笑ったのである。

 関西の人には当たり前のことかもしれないが、東京ではあまりこういった体験はしないし見かけないが(まあ、東京で地図を開くことがほとんどないけれど)、実は同じような体験をソウルでもした。地下鉄や街中で地図を見ていると、必ずと言っていいほど誰かが話しかけてくる(しかも日本語で!)。そして熱心に場所を教えてくれて、人によっては目的地まで案内してくれる人もいた。「あ、もうちょっと地図を見れば自分でも分かるけどな」と思うこともあるが、旅先での心細さが一気に解決する瞬間でもある。

 いま、私たちは「空気を読む」とか「人間関係の距離」にやたら敏感になっている。無意識に「話しかけて迷惑そうにされたら嫌だ」と思ってしまっているのかもしれない。でも、この大阪とソウルでの「ちょっと近い距離感」が妙に印象に残った。たまには「押し売り」くらいの親切が人を心地よくさせることがあるのかもしれない。

(by うた)

(参考文献)
「スヌーピーたちのやさしい関係」1~5、C.M.シュルツ著、谷川俊太郎訳、講談社α文庫

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