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学科の学びの「3つの柱」:認知心理学の立場から
井上知洋先生

こども心理学科 井上知洋

 こども心理学科の学びには「3つの柱」があります。「こころ」「からだ」「環境・文化・思想」の3つです。人の心の働きのメカニズムを研究する心理学の分野を認知心理学と言いますが,認知心理学の立場から考えると,これら3つの「柱」はお互いにとても深い関係にあるといえます。

 まず「こころ」と「からだ」の関係から考えてみましょう。お昼ごはんに何を食べようか決める場面を想像してください。あなたは「カレーライスを食べよう」と決めるかもしれません。このように,選択が迫られる場面で何かを決める心の働きのことを,認知心理学では「意思決定」と呼びます。では,「どうしてカレーライスを食べることに決めたのですか?」と聞かれたら,あなたは何と答えるでしょうか。「ただなんとなく,食べたかったから。」と答えるかもしれません。多くの場合,あなたの「こころ」は,どうしてそのように決めたのかに気がついていないのです。実は,その答えはあなたの「からだ」が知っています。あなたがお昼ごはんに何を食べようか考えて,カレーライスを思い浮かべたとき,過去に食べたカレーライスの味や匂い,満腹感,そのとき感じたいい気持ちが「からだ」の中からふっとわいてきます。だから,あなたは「カレーライスを食べよう」と決めたのです。あなたが決めた意思は,実はあなたの「からだ」が決めていたのです。私たちの「こころ」が何かを決めるときはいつでも,私たちの「からだ」が重要な働きをしていると言われています。

 それでは「こころ」と「環境・文化・思想」の関係はどうでしょうか。もう一度,カレーライスを食べる場面を想像してみてください。お店のテーブルの上には,カレーライスが盛りつけてあるお皿とスプーン,お水が入ったコップがあるかもしれません。ここで,もしあなたが「どうしてカレーライスをスプーンで食べるのですか?」と聞かれたら,何と答えますか。別の質問です。もし隣のテーブルの人がカレーライスを手で食べていたら,あなたはどう思いますか。どうしてあなたのカレーには牛肉が入っているのですか。もうお気づきの方もいらっしゃるでしょう。私たちがカレーライスをどのように食べるか,さらに言えば,私たちの「こころ」がカレーライスをどのようなものと考えているかは,まぎれもなく私たちが生まれ育った「環境・文化・思想」によって決まっているのです。もちろん,このことはカレーライスだけに限りません。私たちの「こころ」が正しいこと,当たり前のこととして考えていることの多くは,私たち自身と,私たちのまわりの「環境・文化・思想」との間に作り上げられてきたものなのです。

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