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欧米文化学科 キャンパスライフ
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教員コラム

グローバル時代の文化──欧米文化学科リニューアルに寄せて

 

欧米文化学科教授 和田光司

現代の国際社会は急速にグローバル化が進んでおり、大学や研究者たちもその影響を免れてはいません。

いわゆる史学・文学・哲学といった大学における人文学の主要分野は、19世紀から20世紀初頭にかけての国民国家の形成期に制度的な発展を見ました。18世紀末のフランス革命は、それまでの様々な身分と地域の集まりとしての国家を否定し、均質で単一不可分の「国民」による新しい国家の形を生み出しました。近代の国家は運命共同体となった国民による「国民国家」として始まったのです。この新たな国家は、生まれたばかりの国民たちに「国民意識」を植え付けなくてはなりません。「イタリアはできた。次はイタリア人を創らなくてはならない」というイタリア統一後のマッシモ・ダゼーリオの言葉は、大変有名です。標準語とされた言語・地理・歴史などの教科を中心に、義務教育による国民教育が始まり、大学ではこのような分野の研究・教員養成のために講座が設置されました。私の専門である歴史については、1824年にベルリン大学に世界初の歴史学講座が設置されています。こうして大学や研究者たちにとって文化が国民単位で存在するという文化的ナショナリズムが暗黙の前提になり、研究者の所属分野や大学のカリキュラムに「イタリア文学」「スイス史」「スペイン文化」といった「(国名)+文化(あるいはその下位区分)」の名称が当然となりました。また例えばパリのソルボンヌ大学で、文学・歴史・哲学・宗教学・人類学・社会学といった分野が学問としての古さの順に序列化され、古い学問ほどより高位の学問とされたように、国民国家において学問の基本的分野が確定され、制度化されていきました。

国民国家は教育やマスコミなどを通じ国民に対し多大な影響力を持ちましたから、ある種の「(国名)文化」が存在することは否定できません。しかし、これでは文化の全体像を把握することはできないという声は以前から上がっており、特にヨーロッパでは1980年代の地域文化の見直し以後、特に強まりました。例えば、イギリスのウエールズ地方の人々とフランスのブルターニュ地方の人々は同じケルト民族に属するため、それぞれの地域言語で会話することが可能であり、実際両者は海を越えて親密に交流してきました。これを「イギリス人・イギリス文化」「フランス人・フランス文化」という枠で捉えたのでは、このような状況は見えてきません。

そして近年のグローバル化の急速な進展は、経済や政治の分野だけでなく、これまでの一国を単位とする文化研究・教育にも大きな挑戦を投げかけています。移民問題やインターネットと英語使用の問題などはその典型と言えるでしょう。例えば日本の教科書問題に示されるように、逆に「(国名)文化」にこだわる動きも各国にあるのですが、これもグローバル化に対する一つの反応と考えられるのです。「(国名)文化」を教え、研究するとしても、もはやグローバルな世界を同時に意識することが必要な時代になっていると言えるでしょう。また、国民国家の中で発展した史学・文学・哲学といった基本的な人文学の領域も現実社会の具体的問題への対応をより求められるようになってきていますが、これもグローバル化の一つの表れであり、これらの学問分野のあり方自体が見直される時期に差しかかっていると考えられるのです。

この度、欧米文化学科では「グローバル文化」「現代世界」「表象文化」の三つのキーワードを中心に、従来の「(国名)+文化・文学・史・思想」というカリキュラムの基本的な枠組を根本的に見直し、また新たな文化状況を読み解くための新科目群を設置しました。グローバル化が現在進行中の運動であるように、私たちの学科も今回のリニューアルに満足することなく、時代に応答するための努力を絶えず続けていきたいと願っています。