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花束の意味
花束の意味

 聖学院大学はセメスター制をしいているので、秋卒業と秋入学がある。

 実は今年、この秋で卒業した男子学生から花束をもらった。黄色とオレンジを基調にした、こぢんまりとしたブーケである。彼は卒業式後に、ブーケを手にして少し恥ずかしそうな顔でやってきて、「卒業できました。今まで本当にお世話になりました」と小さくお辞儀をした。

 人が生きていく中で、入学式や卒業式、お葬式などの「儀式」を行うことは大きな意味を持つ。何か新しいことをスタートする時に、または何かを終え心に区切りを付ける時に、儀式はその気持ちの区切りを持つことを促してくれるからである。東日本大震災のあった年、入学が1ヶ月遅れとなり、式も簡略化されたのだが、新入生や保護者から「なんとなく、スタートしたという気持ちの切り替えができずに、大学に慣れるまでに苦労した」という話を聞いた。入学式なんて、偉い人の話を聞くだけで退屈だし、長時間座っていて疲れてしまう…そんな意見はひとつもなかった。

 さて、この男子学生は持病があり、時に休学をしたり、長期欠席をしながら、大学生活を続けた。そのため、卒業までに5年半かかったのだが、途中「もう大学に通うことは無理かもしれない」「思うように単位が取れなくて悲しい」という気持ちを吐き出すこともあった。しかし、いつも最後には「もう少し頑張ってみる」と自分を奮い立たせ、ついに卒業証書を勝ち取ったのである。

 3月の卒業式に比べると、もちろん卒業する学生の人数も、参列する人も少ない。しかし、卒業式での彼は、これまで見たことのないような大きな笑顔であった。そして、彼が私にくれた花束は、在学中の彼の苦労や困難を知っている私に対しての「やりとげましたよ」というメッセージであり、大学生活を終えるという区切り(ひとつの卒業式かも…)という意味があったのかもしれない。本来ならば、花束を渡すのは送る側、そしてもらうのは卒業していく男子学生であったはずである。しかし、大学に通う最後の日、彼は彼独自の「儀式」をして帰って行った。

(by うた)

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