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聖夜の贈り物-大人とのこどものこころが溶け合う時間のために
居場所どこに

 私は時折、巡回相談を依頼され、埼玉県内にある学校を訪問する。昨日もある小学校を訪問した。校長室に通され、そこに置かれていたこども達の作品に目が留まった。

 「ずっとそのままにしていてね、もう片付けなくてはと思っているんですけどね、なかなかね~」校長先生が私の視線の先を読まれたのだろう、そう呟かれた。

 「もしよろしければ、栞をいただいていいですか?今読んでいる本に大切に使わせていただきます」、こどもが描いたロボットの絵の栞をいただいて帰ってきた。

 その絵を見た瞬間に私の心の中には『シンクロ二シティ』*ということばが浮かんでいた。これは偶然であるけれども偶然ではない、必然なんだろう。いや結果として必然に出来るかどうかは私自身の問題でもあるのだ、そう思っていた。

 11月30日から大学のツリーに灯がともり、夕方になるとアドベント*の期間であることが意識される。知ってか知らずか、歓声を上げながらそのツリーの周りを小さな子どもたちの集団が走りまわっている。今日という日だけで、こどものロボットの絵、そしてツリーの周りを走り回るこどもたち、二つの光景を自分の心の中に刻み付けている。私にとってこれから意味を持つであろう2つの光景として。パウロ・コエーリョは『アルケミスト-夢を旅した少年-』の中で、「前兆」を読み取ることについて語っていた。夢を抱き勇気を出して未来への一歩を踏みだすときには、細心の注意を払い前兆を読み取ることが大切であると、この本を通して少年時代を今現実に生きているこどもたちに語って聞かせているのである。

 前兆なのか、シンクロ二シティなのか、よくわからないけれどもひとつだけ言えることがある。その光景の中に、自分でもわかっていないけれども確かに自分が望んでいる、求めている何かが潜んでいる場合があることだ。

 この一週間、私の鞄の中には、アクセル・ハッケ(作)、ミヒャエル・ゾーヴァ(挿絵)、「プラリネク-あるクリスマスの物語-」が忍ばせてあった。そして、この物語からこどもの発達の一片(ひとひら)が語れないだろうか?そう思っていたのである。小学校の校長室で、栞に描かれたロボットの絵を見たときに、「プラリネクだ」と思った。それはハッケの物語からゾーヴァが生み出した、ロボットの姿を想起させるものだった。プラリネクは、お父さんとなかなか会えない少年が、お父さんへの願いを込めてこども自身が作ったクリスマスの贈り物だった。お菓子の箱、洗剤の箱、そしてトイレットペーパーの芯から出来きていた。お父さんは、そのプラリネクを通して、息子の心の声を聴いたのだろう。そして、クリスマスの日に「プラリネクの物語」を息子に向かって語る。

 『贈り物は、人を喜ばせるものなんだ。つまり、ある人が、もう一人、別の人のことをよく考えたってことだね。その人とちゃんと向き合ったってこと。その人がどんな望みをもっているのか、何をかんがえているのか、何がその人を喜ばせることができるのか。それがわかったんだ。だから、その人に贈り物をする。贈り物の中では、二人の人が出会う。よい贈り物なら、二人の心が出会う』(プラリネクより引用)

 サンタクロースが来るまでの間、お父さんが息子に語る『プラリネクの物語』、父と子の間で確かにお互いの『こころ』が出会い、ホットチョコレートのように甘く溶け合っている時間だろう。こどもが発達していくための大人とこどもの時間の使い方が、その本の中で語られているように思う。

 日本では騒がしいばかりのクリスマスだが、物語を語る、静かなクリスマスの時間の流れが、私たちの『こころの出会い』のために、あってもいいのかもしれない。

 私の「プラリネク-あるクリスマスの物語-」の本では、今、ゾーヴァのプラリネクと栞のロボットの絵が出会っている。ふたりでどんな話をしているんだろう。クリスマスの日には、ぜひ耳を澄ませてふたりのロボットの会話を聴いてみたいと思っている。

(12月某日 by ゆた)


注)
*シンクロ二シティ(Synchronicity):「意味のある偶然の一致」のこと。
何か複数の事象が、「意味・イメージ」において「類似性・近接性」を備える時、このような複数の事象が、時空間の秩序で規定されているこの世界の中で、従来の因果性では、何の関係も持たない場合でも、随伴して現象・生起する場合、これを、シンクロニシティの作用と見なす(カール・ユング;Synchronizitat)。
*アドベント(Advent):ドイツ語でクリスマス前の4週間のこと。イエス・キリストの降誕を待ち望む期間のこと。

●お薦め参考図書
「プラリネク-あるクリスマスの物語」アクセル・ハッケ,ミヒャエル・ゾーヴァ(2005) (三修社)
「アルケミスト」              パウロ・コエーリョ(2011)             (角川文庫)

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