AO【講義型】入試特別講演(2)│聖学院大学の「育てるAO入試」

あなたをきっと‘発見’します。・・・・・・聖学院大学の「育てるAO入試」

「AO[講義型]実践講座」7月20日オープンキャンパスにて(講師:小川洋教授)

オープンキャンパスで開講された講座の様子をここにご紹介します。
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 スライド資料を見ながら講義を聞く練習をしましょう


 それでは、スライドで資料を示しながら行われる講義というものを実際にやってみたいと思います。これから模擬講義型AOです。これから私は、「子どもと貧困」というテーマで、スライドを示しながら、子どもの成長にとって貧困はどう問題になるか、というテーマで話してみます。ノートを取ってみてください。

 まず貧困という定義は意外と難しいのです。「一日何カロリー以上の食事が摂れていない」とか、「一日数十円以下で暮らしている」とかで貧困を定義することもできますが、それは絶対的貧困といいます。でも先進国ででは、そういうレベルの貧困はあまり見られません。しばらく前、日本のある町で「おにぎり食べたい」と遺書を残して死んだ人がいましたが例外です。国際的には「相対的貧困」という定義を用います。国民の所得の中央値の2分の1の所得水準以下を「貧困」とします。つまり、その国の国民を所得別に並べて、真ん中に来る人の所得額の2分の1に達しない人を「貧困」といいます。ですから貧富の差の大きな国では、貧困層が多くなり、北欧諸国のように国民全体が中流の生活を享受している国では、貧困率は低くなります。

子どもの貧困率 日本はどのぐらい貧困の状態に置かれている子どもがいるか、【図1】に示されます。2~3年前のOECDとい先進国の仲間の調査結果です。日本で貧困状態に置かれている子どもは、大体14%です。7人に一人ぐらいは貧困ということになります。貧困が非常に少ないのはスウェーデン、フィンランド、デンマークなどの北欧諸国です。北欧諸国は、いわゆる高度福祉国家です。一方、アメリカとか、いわゆる自由主義的で、誰にも金持ちになるチャンスはあるけれども-実際はあまりないのですが-、貧乏に落ち込んでも政府はあまり面倒を見ないよ、という国では当然、高くなります。アメリカの場合、22~23%は貧困状態です。そのかわり、とてつもない金持ちもいるという社会です。

政府の所得移転効果 あともうひとつ、日本の子どもたちが置かれた、あるいは日本の各家庭が置かれた問題のひとつを示すグラフ【図2】を紹介します。皆さんに見てもらいたいのは赤い棒線です。デンマークはほんの数%、フィンランドも数%、スウェーデンでも3%か4%です。これは政府が貧しい家庭にいろいろな援助をしたりすることによってここに収まっているのです。政府が援助したり、税金を免除したり、そういうことをする前はこの青い棒線なのです。つまり、最初の貧困率はこの青い棒線です。フィンランドでは、もともと収入が低い貧困家庭は日本よりも高い比率で存在するのです。この青い棒線はもともとの貧困層の割合、赤い棒線は、政府が補助金を出したり、貧しい家庭から税金を取らないようにするとか、貧しい家庭の子どもの教育費を特別に補助するとか、そういうことをした結果がこの赤い棒線です。

 日本の特徴というのははっきりしていますね。日本は貧しい家庭に対する支援が非常に疎かです。さらに、貧しい家庭でも、年金とか医療保険だとか、いろいろな公的負担をしなければならない仕組みになっています。政府というのは、国民に対して、税金を取ったり免除したり、逆に補助金を出したりとか、いろいろな働きかけによって、国民生活を左右します。それによって、貧しい子どもが、救われる場合もあるけれども、日本の場合は、唯一、政府が関与した結果、貧しい子どもが増えているのです。

 フランスははっきりしています。フランスの貧困層は、もともとは25%を超えている。4人に一人以上は貧困ライン以下です。ところが、実際には、数%に抑えられている。日本だけ、もともとは12%ぐらいなのですが、さらに貧困率が高くなっている。したがって日本は、とくに貧しい状況に置かれた人の子育てに対する援助が非常に乏しい社会であり、子どもの貧困が放置されているということが、この資料から見えるわけです。

 小泉さんが総理大臣だった時に、「貧富の差が大きくなり、貧困が増えているのではないか?」という議論が国会で話題になったことがあります。その時、「いや、多少は格差があったほうが、下のほうにいる人たちがやる気になるし、健康な社会なのだ」と、いう反論がありました。人によっては「多少の貧困があったほうがいい」という議論をする人だっている訳ですが、私の話はあくまで、貧困の状態に置かれる家庭で育つ子どもにどういう問題があるかということを扱います。子どもが育つ上での問題を扱います。

最下位層の落込み 次にこういうグラフ【図3】を紹介します。2000年から、3年ごとに世界の先進国が協力してPISAという学力調査をやっています。テスト問題だけではなくて、「あなたの家庭にどのぐらい本がありますか」とか、「お父さんやお母さんと一緒に何か芸術鑑賞に行くことがありますか」など、子どもの家庭の経済的・文化的な条件も調べます。さて、一番右のマークが、もっとも恵まれた家庭の子どもの成績です。それから左端が、一番恵まれていない家庭の子どものものです。世界中どこでも家庭の経済水準と学力水準はほぼ正比例します。黒いのはOECD四十数カ国の平均です。豊かな家庭ほど子どもの学習結果が良く、中上位、中下位と少しずつ下がってきます。

 ところが調査参加国の平均でも、下位になると大きく下がるのです。日本の場合もそうです。点線にしておきましたけれども、だいたい正比例して成績が下がるのですが、最下位の、要するに経済的にも文化的にも社会的にも恵まれていない家庭の子どもの成績は大きく落ちるのです。

 ということは、貧困な家庭で育った子どもは、学力もなかなか身につかない。こういう学力が身につかない子どもが増えれば、当然、義務教育を終えるだけで精いっぱいだし、高校教育も十分ついていけないかもしれない。ましてや大学教育を受けるのは困難だろう。そういう人が社会に出た時にどんな仕事があるか。また、日本社会全体を考えた時に、将来、あまりいい労働力になりそうもないですね。報告書を書かせたり、機械を操作させたりしても、どうもあまり適切に仕事ができない。そのような労働力が増えたら、日本社会にとってマイナスになります。ですから、現在の子どもの貧困を放置すれば、10年後20年後の日本の社会にとっての非常に大きなマイナスになるということが分かります。

貧困と子どもの発達(ハワイの事例研究から) それから、こういう調査もあります。【図4】です。日本では研究がないのでハワイで行われた調査ですが、簡単に説明しておきます。Ⅹ軸はお母さんの出産期の健康状態を表しています。左端は問題がまったくなかった。風邪をこじらせた、あるいはつわりがひどかったなど深刻な問題があったが、右端です。それぞれの母親から産まれた赤ちゃんが2歳になった時にどの程度に知能が発達しているかという調査です。赤い線、点線、それから青い線は、それぞれ、お母さんの経済的な文化社会的なレベル、つまり恵まれた豊かな家庭のお母さんか、中位か、貧しいかが、3本の線で示されています。

 ここまで説明すると一目瞭然ですね。お母さんがどんなに体調悪くて、赤ちゃんの体も問題を抱えて生まれてきたとしても、家庭的に恵まれていると、赤ちゃんは健康に育つことができるのです。経済的に余裕のある家庭では、早めに医者に連れて行き、適切な治療を受けさせるからです。
 ところが、貧しい家庭のお母さんが、自分の体調もよくなくて、健康に問題を抱えた赤ちゃんを育てようと思うと、お医者さんに行くのにもお金がかかるし、貧しいから時間的な余裕もなく、ついつい遅れて、赤ちゃんの知的な発達も遅れがちになるということが分かります。

 日本の社会でも当然同じことが起こっていると考えられます。貧困家庭を放置しておくと、赤ちゃんの段階から発達が悪くなる。将来的に、いろいろなハンディを持ったまま成人になってしまって、福祉の対象になるかもしれない。それは社会全体にとっても不幸です。本人にとっても不幸です。

貧困と虐待の関連 こういう資料もあります。【図5】です。日本の事例です。今、問題になっている児童虐待です。どんな家庭で虐待が起きやすいかを示しています。母子家庭とか父子家庭、つまり一人親家庭です。このよう家庭の多くは、生活水準も低くなりがちです。生活保護所帯とか、非課税というギリギリの生活の人たちのところで、子どもの虐待は起きやすい。これは常識的にも理解できますね。親に余裕がない。時間的にも経済的にも余裕がないと、ついつい子どもにあたったりする。そうすると、子どもの発達には絶対的にマイナスですね。子どもは、発達において大きなハンディキャップを抱えたまま成長していく可能性が高い。

貧困の世代間連鎖 それから日本では義務教育は無償だということになっていますが、文科省自身がこういうデータを出しています。【図6】です。公立の小学校中学校で教育を受けさせても350万円ぐらいかかります。小学校や中学校でおそろいのジャージを着てくださいとか、指定の上履きを買ってくださいとか、要求されます。教育費は無償だといっても、実際はこれだけかかります。貧困家庭の子どもは、義務教育期間でさえ遠足を欠席せざるを得ないとか、修学旅行をあきらめるとかということになりかねません。

朝食の摂取状況とペーパーテストの結果との関係 最後ですが、文部科学省は現在、こういう運動をやっています。【図7】です。先ほどお話ししたように、全国学力調査の際に、家庭環境のアンケートも取るのです。その中で、「朝食をとりますか」とか、「家に何冊ぐらい本がありますか」とかの質問があります。そのデータから、「朝食をとる子どもと、朝食をとらない生徒の間には、これほど学力の差があります」という結果が出て、「朝食をとりましょう」というキャンペーンをしています。

 私に言わせれば、母子家庭などで、お母さんは生活を維持するために働いて、ギリギリの生活をしているわけだから、朝起きられないかもしれない。場合によっては、お母さんは夜勤明けかもしれない。そのため、子どもに朝食を用意してあげられないかもしれない。つまり、朝食を摂るか摂らないかは、豊かさと貧しさのバロメータかもしれない。親がただただずぼらでさぼっているというのであれば、政府が「皆さん、子どもには朝食をとらせて学校に行かせましょう」で済むのですが、実は最初のデータで見たように、日本は貧しい人たちに対する公的な補助が非常に薄い。朝食をとっていないことと家庭の貧しさに強い相関関係も想像されるのです。だとすれば、文部科学省のキャンペーンはナンセンスですね。政府として、生活が苦しい家庭を援助して、子どもが健やかに成長する環境を整えるのが仕事でしょう、ということになります。

 終わりに


 私自身は教育学が専門ですので、「子どもと貧困」というテーマでスライドを7枚見てもらいながら、25分ぐらいで話しました。どこの学部の実際の試験でも、それぞれ、このようなスライドを5枚とか10枚見せながら、グラフや写真などを示しながら講義を進めます。その後、ノートを整理してもらって、その整理したノートを元にして面接をし、「あなた、今日の話の内容についてどう思いましたか」などの質問をさせてもらいます。その時に、「今日、初めて聞いた話ばかりだったので驚きました」というような、小学生みたいな返事をしないでください。こちらとしては、力が抜けてしまいますから。「講義の中ではこういうことを指摘していましたけれども、こういう考え方もあるのではないですか」とか、なるべく突っ込みを入れるような、少し生意気なぐらいの返事をしてください。大学生は、生意気でなければいけません。大学に入ったら、「先生は授業でこんなこと言っていたけれど、私はそうは考えない」とか、そういう生意気さがなかったら、大学では本当に勉強になりませんから。ですから、この入試で、大きなポイントを稼げるのは、講義で先生の言ったことに疑問を呈するような結論を出すことです。「先生はああいう結論を言ったけれども、私はこういう異なった結論を考えました」。そのような受験生は、たぶん一発で合格になります。「おっ、こいつなかなかユニークな思考をするな」という訳です。もちろん、まったくトンチンカンだったらダメです。ただ、批判精神が旺盛だというのは、絶対強いポイントになります。では、予定の時間は来ましたので、私の話は以上で終わります。

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